体の慢性的な痛みを軽減する方法の一つに、衝撃波を利用したショックウェーブ(体外衝撃波)治療があります。保険診療では難治性の足底腱膜炎に対して行われることが一般的ですが、肩や肘、腰、膝、股関節など幅広い部位に対しても除痛効果が期待できる治療法です。
ヨーロッパでは広く普及していますが、日本ではまだ珍しい治療法であり、体外衝撃波治療器を導入している整骨院は決して多くありません。体外衝撃波治療を取り入れることで、なかなか治らない痛みに悩む患者に対し、他の整骨院にない選択肢を提供できるでしょう。
本記事では、体外衝撃波治療の基礎知識や効果が期待できるケース、一般的な施術の流れ、気になる安全性について解説します
ショックウェーブ(体外衝撃波)治療とは?
ショックウェーブ治療とは、体外衝撃波治療とも呼ばれ、音波の一種である衝撃波を体外から照射する治療方法です。元は高エネルギーの衝撃波を腎臓に照射し、体を傷つけずに腎臓結石を破砕する治療方法(体外衝撃波結石破砕術)として確立されました。
しかし体外衝撃波結石破砕術を受けた患者に、患部の炎症を緩和したり組織の修復を早めたりする効果が認められたことから、現在は整骨院や整形外科においても、より低エネルギーの衝撃波を用いた体外衝撃波治療が行われています。
特にヨーロッパでは、アスリートに多い膝の痛み(オスグッド病)や股関節痛(シンスプリント)、テニス肘や野球肘といったスポーツ障害に対して取り入れられている治療法です。
日本における知名度はあまり高くありませんが、2012年には足の裏やかかとが炎症を起こす難治性の足底腱膜炎に対し、体外衝撃波治療の保険適用が認められています。(※1)
※1 厚生労働省「医療機器の保険適用について(平成24年1月収載予定)」
体外衝撃波治療に使われる2種類の衝撃波
体外衝撃波治療で照射する衝撃波は、集束型・拡散型の2種類に分けられます。いずれも人体への負担が少ないという共通点がありますが、衝撃波の患部に対する作用が異なります。
衝撃波の種類 | 効果 |
集束型 |
|
拡散型 |
|
近年は施術中のリスクがより少なく、リハビリテーションに適しているという利点から、拡散型の衝撃波を照射できる圧力波治療器の人気が高まっています。
ただし集束型の衝撃波には、骨組織への治療効果が期待できるという強みがあるため、患者の症状に合わせて使い分けることが大切です。
体外衝撃波治療の特徴
体外衝撃波治療には、以下のような特徴があります。
- 短時間で施術を行うことが可能
- 施術後すぐに効果が現れやすい
- 低侵襲性でリスクが少ない
短時間で施術を行うことが可能
1つ目の特徴は、体にメスを入れる手術療法(外科治療)と比べて、施術に要する時間が短いという点です。
例えば、拡散型の体外衝撃波治療を行う場合、治療時間はおおよそ2分から5分ほど です。すぐに施術が終わるため、患者の待ち時間がほとんどありません。
また座った姿勢(座位)や診察台に横たわった姿勢など、楽な姿勢で治療を行えるため、患者の体への負担が少ない点も体外衝撃波治療の特徴です。
施術後すぐに効果が現れやすい
2つ目の特徴は、治療効果がすぐに現れやすいという点です。衝撃波の照射後、その場で疼痛の緩和などの効果を実感できるという人が多いようです。
これまでなかなか治らなかった痛みが、即座に和らいだように感じられるため、患者に喜ばれやすい治療方法です。
低侵襲性でリスクが少ない
3つ目の特徴は、リスクが少ないという点です。メスで切開したり、針で指したりすることのない低侵襲性の治療のため、入院の必要もありません。
また、衝撃波の照射を行っても患部に傷は付かず、傷口から細菌が入って術後感染症を引き起こすこともありません。治療後はすぐに歩行可能で、競技復帰に時間がかからない点も体外衝撃波治療の特徴です。
どのようなケースで体外衝撃波治療が用いられる?
体外衝撃波治療は、保険診療では難治性の足底腱膜炎に対して行われることが一般的ですが、肩や肘、腰、膝、股関節、アキレス腱などに使われることもあります。
特に手術療法を避けたい患者や、保存療法を一定期間継続しても効果が見られない患者などにおすすめしたい治療方法です。
ここでは、保険診療の対象となる疾患とそうでない疾患に分け、体外衝撃波治療がどのようなケースで行われているかを解説します。
保険診療の対象となる疾患
保険診療の対象となるのは、基本的に6カ月以上保存治療を行っても軽快しない難治性の足底腱膜炎です。
足底腱膜炎とは、足の裏(足底部)の腱に生じる微小な断裂や炎症のことで、起床直後や運動中などに強い痛みが感じられることが特徴です。陸上やサッカーなど、足底部を酷使するアスリートに多いスポーツ障害として知られています。
足底腱膜炎の治療は、消炎鎮痛剤の使用やステロイド注射など、保存療法を行うことが一般的です。しかし患者数の約1割は難治性の足底腱膜炎で、保存療法ではなかなか症状が改善しないといわれています。
これまで難治性の足底腱膜炎には、炎症を起こした足底腱膜の一部を切除する手術療法しか選択肢がありませんでした。しかし、手術療法は傷跡が残るだけでなく、術後の競技復帰に時間がかかります。
そこで登場したのが、2012年から保険適用された体外衝撃波治療です。体外衝撃波治療は、保存療法や手術療法に代わる第三の選択肢として、スポーツ選手を中心に少しずつ利用されるようになりました。
保険診療の対象ではない疾患
体外衝撃波治療は、保険適用されない自費診療(自由診療)にも用いられています。特に治療効果が期待できるのは、以下のような疾患です。
- 慢性腰痛症
- 石灰沈着性腱板炎
- 肩腱板炎
- アキレス腱炎
- アキレス腱付着部炎
- オスグッド病
- 膝蓋腱炎(ジャンパー膝)
- 腸脛靱帯炎(ランナー膝)
- 上腕骨外上顆炎(テニス肘)
- 脛骨過労性骨膜炎(シンスプリント)
- 踵骨骨端症(シーバー病・セーバー病)
- 偽関節
- 疲労骨折
- ばね指
- 手根管症候群など
これまで上記のような疾患に対しては、主にステロイド注射や手術療法などが行われてきましたが、副作用や傷跡などのデメリットもありました。
一方、体外衝撃波治療は基本的に保険外診療となるものの、従来の治療方法と違って施術後のリスクがほとんどありません。そのため体外衝撃波治療は、主にスポーツ障害などの分野において活用が期待されています。
一般的な体外衝撃波治療における施術の流れ
一般的な体外衝撃波治療の流れは以下のとおりです。
- 圧痛点の特定
- 照射深度や角度の設定
- エネルギー強度の調整
- 治療効果の確認
圧痛点の特定
まずは圧痛点(触ると痛い場所)を正確に特定し、病変が生じている場所を確認します。
テニス肘やジャンパー膝、足底腱膜炎など、腱・靱帯と骨との付着部に生じた病変の場合は、皮膚上から比較的簡単に圧痛点を特定することが可能です。
病変部位がはっきりと特定できない場合は、超音波(エコー)検査やレントゲン、CT、MRIなどの画像所見を参考にします。
照射深度や角度の設定
体外衝撃波治療の効果を得るには、病変部位に対し正確に衝撃波を照射する必要があります。そのため、超音波画像やCT画像などを用いて、病変部位の深度(深さ)や、衝撃波を照射する角度を計測します。
照射深度や角度を計測したら、圧力波治療器のセッティングを行い、衝撃波が病変部位にきちんと当たるように調整しましょう。
エネルギー強度の調整
圧力波治療器を使用する際は、まず低いレベルの照射から始めます。いきなり高エネルギーの衝撃波を照射すると、患者が痛みを感じる場合もあるため、患者の反応を見ながら少しずつエネルギー強度を調整します。
治療効果を高めるには、患者が耐えられる最大のエネルギー強度で照射を行うことが大切です。照射中は病変部位に軽い疼痛が生じますが、ほとんどの場合は数分程度で軽快し、その場で治療効果を実感できるでしょう。
治療効果の確認
決められた回数の照射を行ったら、患者へのヒアリングなどを行い、治療効果が得られたかを確認します。
体外衝撃波治療では、病変部位の組織を回復させるため、1週間から2週間程度の間隔を空けて照射を行うことが推奨されています。治療を継続する必要がある場合は、次回の診療予約を取りましょう。
体外衝撃波治療の効果
体外衝撃波治療には、痛みの原因をその場で取り除く除痛効果や、組織の修復を早める組織修復効果などの効果が期待できるといわれています。以下で詳しく解説します。
除痛効果
他の治療方法と比べると、体外衝撃波治療は比較的治療直後に除痛効果を実感しやすい方法です。
患部に衝撃波を照射すると、痛みを誘発している神経の末端部分(自由神経終末)が変性または破壊されます。自由神経終末の働きが弱まることで、痛みを伝達する神経伝達物質(CGRP)が減少するため、痛みの軽減につながります。
ただし除痛効果には個人差があるため、患者によっては痛みを感じなくなるまで数日から数週間程度の時間がかかる場合もあるでしょう。
組織修復効果
体外衝撃波治療には、患部の組織修復を促す効果もあるとされています。衝撃波による刺激が患部に伝わると、血管新生(新しい血管を形成する働き)やコラーゲンの産生が誘発され、細胞が持つ組織修復作用が活発化します。
体外衝撃波治療が、他の治療方法では治りづらい石灰沈着性腱板炎に効果があるといわれるのも、この組織修復作用が理由の一つです。
また体外衝撃波治療を行うと、炎症の原因となるサイトカインの産生が抑制されるといわれています。病変部位の炎症を抑えるとともに、長期的な疼痛緩和効果も期待できるでしょう。
体外衝撃波治療の安全性
体外衝撃波治療では患部に衝撃波を照射するため、安全性が気になる方もいるかもしれませんが、体外衝撃波治療は厚生労働省の承認を受けた治療法です。難治性の足底腱膜炎患者を対象に、集束型体外衝撃波治療器を用いた臨床試験においては、安全性について次のように報告されています。
“重篤な不具合の発生はなく、治療中の疼痛を除き、実治療群と偽治療群において発現した不具合に有意差はなかった。”
引用: 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「特定保守管理医療機器 設置管理医療機器 ドルニエエイポス ウルトラ」P4
体外衝撃波治療器は複数ありますが、これまで体外衝撃波治療において重篤な不具合は報告されていません。
体外衝撃波治療による不具合
重篤な不具合はないとはいえ、患者の体調などによっては、体外衝撃波治療により疼痛や腫脹(腫れ)、赤み、感覚異常などが生じる場合があります(※1)。いずれも数日で軽快する場合がほとんどでしょう。
体外衝撃波治療は先述のとおり、外科的治療など他の治療法と比較してリスクの少ない治療法です。基本的に治療による運動制限はなく、症状によってはすぐにスポーツを再開できることもあります。
ただし、次に該当するような動きはできる限り控えた方がよいでしょう。
- 肩の治療後のオーバーヘッドなどの激しい動き
- 足底腱膜炎の治療後のジャンプを含む激しい動き
- 上腕骨外側上顆炎の治療後のテニスなどの腕を使うスポーツ
※1 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「特定保守管理医療機器 設置管理医療機器 ドルニエエイポス ウルトラ」P4
体外衝撃波治療の禁忌
集束型体外衝撃波治療の禁忌は、照射領域に悪性腫瘍や感染症、不明瞭な病理的変化、成長骨端線がある患者などです。未治療の血液凝固障害のある患者や、多発神経障害・多発関節炎のある患者も原則禁忌です(※1)。
ただし、衝撃波を高エネルギーで照射する集束型と比較して、広範囲で照射する拡散型では、禁忌に対する考え方が異なる場合もあります。
体外衝撃波治療を実施する際は、リスクや禁忌に注意し、患者の安全を十分に確保した上で治療器を使用することが大切です。
※1 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構「特定保守管理医療機器 設置管理医療機器 ドルニエエイポス ウルトラ」P1
体外衝撃波治療の導入をお考えの方は、「ヒラタメディカルサポート株式会社」にお声がけください。ヒラタメディカルサポートでは、体外衝撃波治療に用いる圧力波治療器も複数取り扱っています。
販売だけでなく、リースやローンも可能です。また、ヒラタメディカルサポートでは接骨院や整骨院の開業をお考えの方に向けて、開業場所の選定や資金調達のサポート、工事業者のご紹介なども行っております。ぜひお気軽にご相談ください。